マイフェイバリット・アーキテクト(2)<柄沢祐輔>


ライト作品集

ハナ邸

ジェイコブスハウス2

ライト建築作品


第二回目はフランク・ロイド・ライトです。写真は日本で最初に出版されたフランク・ロイド・ライトの作品集です。この作品集を手に入れるまでフランク・ロイド・ライトという建築家に正直のところあまり興味がありませんでした。さまざまな作品集やドローイング集で見る彼の作品は、空間的な魅力というよりも装飾の過剰さが際立ち個人的には好きになれませんでした。しかし、この作品集をたまたま古書店で手に入れて以来、そこに収められている空間の力に魅了されてしまいました。どうしてでしょうか。まず、この作品集におけるライトの作品の写真は、普通に書店で手に入る数々のライトの作品集における写真とまったく違っています。ひとことで言えば、アングルが低く抑えられている。それによって、天井高が限界まで低く抑えられたライトの建築の空間性が強調され、ライトの建築の特殊な空間のあり方を、実際に訪れなくても生々しく伝えるものになっていたのです。

天井高がこれほどにまで低く、そしてどこまでも続いてゆく回廊のシークエンスと庇などの水平のエレメント。その外に広がる広大にして茫漠なアメリカの大自然。この空間を実際に体験してみるということは、どのような体験なのか。何かが普通の建築とはまったく異なっている。古ぼけた作品集は何かまったく異なる空間のあり方を伝えている。果たしてそれは実際にどのような体験なのか。それを確かめるべくはるばるアメリカまで赴いたのでした。

日本から手配を行い、マディソン郡の郊外にシカゴから車で約3時間。雄大な自然の中に位置する住宅地の中に、ライトの中期のユーソニアンハウスが佇んでいました。実際に住みながら手入れをしているオーナーの方に挨拶をし、中を案内してもらうと、その空間の清々しさに圧倒されてしまいました。

なだらかな地形の敷地に水平に広がる幾何学的なプランが垂直方向で層状に分かれ、屋根と壁の間の隙間に巧みに開口部が採られています。そして何よりもプロポーションと天井高の寸法の的確さが空間に強い緊張感を与えています。天井高は作品集の写真で見たように限界まで落とされており、しかし部分的に上部への吹き抜けや天井面への削り込みなどの表情がつけられていることによって、限界まで下げられた天井高がしかし圧迫感がなく、身体的な刺激を与える力強い空間になっています。この天井面の操作が、幾何学の純粋さと結びついているところがフランク・ロイド・ライトの建築の最大の特徴だといってもいいかもしれません。天井高が卓抜に操作されることによって、平面の幾何学が際立ち、空間を統合する最大のデザインの要素として、屋根と天井高が何よりも重要視されているのです。

このような方法によってデザインされているライトの建築では、どこまでも身体に訴えてくる極度に密度の高い空間が実現しています。天井高の操作が最大の鍵だといってもいいかもしれません。訪れたライトの住宅は珠玉の作品でした。このような身体性のありかを、アルゴリズムを通して、まったく新しい形で表現ができればと僕は考えています。



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