マイフェイバリット・アーキテクト(4)<柄沢祐輔>


丹下健三作品集

東京カテドラル天井の十字

東京カテドラル天井見上げ

代々木オリンピックプール


第四回目は丹下健三です。日本の建築史上、もっとも卓抜な造形を展開した建築家といえば、おそらく丹下健三に異論がある方はいないと思います。第二次世界大戦後の日本の復興の最中に、原爆記念公園の整備計画を中心とした広島ピースセンターの建設コンペの勝利を皮切りに、日本各地に優美でモニュメンタルな建築の数々を公共の空間として造り続けました。そのキャリアは60年代の半ばに絶頂を迎えます。1964年の東京オリンピックの折に建設された代々木オリンピック国立屋内競技場と、同じ年に竣工した東京カテドラル聖マリア大聖堂は、大空間の中で架構のダイナミズム、比類のない造形とプロポーションなど、日本の建築空間の中でも最も高い達成として、今なお建築史において燦然と輝いています。

その空間を訪れて驚くのは、とにかく空間の中に張り詰めた緊張感と同時にどこまでも空中に広がってゆくかのような開放感です。これほどの大空間が圧倒的な緊張感に包まれている状況は、世界の建築の中でもあまり類を見ないものだと言っていいでしょう。そして、のびやかなカーブが大空間の中をどこまでも広がり、その優美な曲線が立体的に絡み合う隙間に、教会の信者席や競技場などの大規模な公共の施設が収められています。そこでは、幾何学が縦横に絡み合い、人間のスケールを超えた新しい自然の風景のような景観を生み出しています。

なぜこれほどこの時期の丹下健三の空間が優美なのか。そして同時に単純に視覚的に美しいだけでなく、恐ろしいほどの緊張感と同時にのびやかな開放感にあふれているのか。その一つの理由として、この時期の丹下の空間が、複数の幾何学を繋ぎ合わせていることにその最大の要因があるのではないかと思っています。例えば東京カテドラル聖マリア教会は、平面でみると平凡な四角形ですが、天井ではカソリック教会らしく十字型のトップライトが設えられており、その床の四角形と天井の十字という二つの種類の異なる幾何学を繋ぎ合わせることによって作られているといってもいいでしょう。また、代々木オリンピック国立屋内競技場は、弓なりにカーブを描く弧が平面でずらされながら配置されていますが、断面にも同じく弓なりカーブが垂直に描かれており、この平面のカーブと断面のカーブを繋ぎ合わせながら、全体のダイナミックな形が整えられているのです。

実は、丹下健三の60年代の二つの建築にみなぎる空間の質の正体とは、空間に別々の幾何学を並べ、それを繋ぎながら併置させることによって、空間に異質な幾何学がせめぎあっていることによって生み出されている緊張感なのではないでしょうか。異なる幾何学が空間に同時に存在しながら繋ぎ合わせられることによって、空間に異質な力が拮抗しながらせめぎあい、類例のない緊張感にあふれた大空間が生み出されているのです。

僕はアルゴリズムを用いれば、このような幾何学の造形をさらに進化させることができるのではないかと思っています。それがたとえ小さな住宅建築だったとしても、それは十分に可能なことではないかと思っています。




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