



マイフェイバリット・アーキテクト第五回目は、イヴァン・レオニドフです。イヴァン・レオニドフは20世紀初頭のロシア構成主義の運動の中で活躍した最大の建築家です。当時のロシア革命の直後の激しい社会の変動期のさなかにあって、それまでの西欧の伝統的な建築とはことなる、また同時代のヨーロッパの近代建築家ともまったく種類の異なったラディカルな建築の姿を追究しつづけました。彼は数多の計画案をドローイングとして残し、そのプランの数々は今なお多くの建築家が参照源とするものとなっています。
彼の残した計画案とドローイングにはすべて大きな特徴があります。それはロシアの雄大な自然の中に、立方体や球、直方体などの純粋な幾何学による立体が、あたかもコンピュータ・グラフィックスの画面の世界のように重力を感じさせない状況で、最小限の構造体に支えられながらあたかも空中に浮遊しているかのように立体的に配置され、当時のヨーロッパの建築とは全く異なる、社会の革命のよる大変動の中でどのように人々の生活が変化をしてゆくかという期待に応答するかのような、画期的な建築と都市の姿の数々を生み出したのでした。
その建築の姿は、革命のよって起こった社会の変動がどのように人々の生活を変えてゆくかいう予想と期待にみなぎっています。純粋な幾何学によって生み出された自然の中に佇む建築には、その幾何学に合わせてさまざまな人々の活動の施設が収められており、それらが雄大な自然の中に点在することによって、自然と人間のまったく新しい関係と社会の姿、生活のあり方、建物の中での人々の振る舞い、近隣の人々との関係、コミュニティの姿、などが旧来の価値観に基づくものとは全く異なる姿として、そこで立ち現れるであろうことを予感させます。
彼の最初期の作品、「レーニン研究所」を見てみましょう。これは科学技術の研究所と図書館というプログラムを持った施設ですが、そこでは図書館がかぎりなく縦に細長いプロポーションの高層のタワーにおさめられ、また、プラネタリウムや講堂が完全に丸い形をしたヴォリュームの中に収められています。このように単純な幾何学の中にプログラムが分けられつつ収められた科学技術の研究所の中では、もし実現していたならば、新しい人々の振る舞いや生活や仕事のスタイルが展開したのではないかと、その美しい模型とプランを見返すたびに想像が膨らみます。
この幾何学によって新しい人々の振る舞いを生み出すこと。アルゴリズムの方法論を用いると、この幾何学そのものがまったく新しい姿で立ち現れることになります。レオニドフが実現しようとした、球や直方体などのシンプルな幾何学による新しい人々の生活という姿を、今の時代であれば、アルゴリズムによって生み出されるまったく新しい幾何学によって、再び新たに定義することができるのではないでしょうか。新しい幾何学によって生み出された建築の中では、どのような新しい人々の振る舞いと生活が待っているのでしょうか。アルゴリズム建築の来るべき未知の可能性とは、新しい幾何学によって同時に変化をとげてゆく人々の振舞い、私たちの生活と社会のあり方、その果てしない可能性そのものにあるのです。